Il design secondo Magis マジス流デザイン

MAGIS JAPANは、2018年10月に大阪南港ATCホールで開催されたLIVING&DESIGN 2018に出展し、期間中のイベントとして、イタリアから来日したMAGIS創業者 ユージニオ・ペラッツァによるスペシャルセミナーを行いました。
古くから親交のあるデザインプロデューサー 喜多俊之氏をモデレーターに、「マジス流デザイン」についてお話させていただいた様子をご紹介いたします。

 

ユージニオ・ペラッツァによるスペシャルセミナー

Magis 創業者 Eugenio Perazza ユージニオ・ペラッツァ

 

こんにちは、皆さん。
まずはこの「Living & Design」にお招きいただいたことに感謝の意を申し上げたいと思います。

本日私が皆さんにお話しする内容は、

 


1. 自分がどのようにデザインの世界に入ったか
2. マジスについて
3. マジス流デザインとは
4. マジス商品の紹介
5. 将来デザインに携わる若いデザイナー、学生の皆さんへのアドバイス
6. ある一つの寓話


 

私はデザインの世界に入って50年になります。この50年という月日の間に沢山の素晴らしい世界的デザイナーの方々と強いつながりを持ってきました。その中には日本人デザイナーの喜多俊之さん、深澤直人さんも含まれます。
彼らはMagisの歴史にとても重要な影響を与えてくれています。

 

1. 自分がどのようにデザインの世界に入ったか

時代は遡りまして1975年のことになります。
当時私はヴェネツィア近郊のとある企業に勤めていました。そこでは従業員数はおよそ80人前後、スチールロッドで作られた日常雑貨品(皿の水切り、野菜収納のワゴン、室内用洗濯物干しなど)を製造販売していました。

 

会社は製品生産に多額な投資をしていましたが、商品の研究・開発においては全くと言っていいほど投資をせず、既に市場に出回っている商品をコピーして販売していました。私がお客さんの所に行って何度も経験したのは、カタログを見ながら「これはどこそこの商品のコピーだよね、それもあの商品のコピーだよね」と言われることで、私はその度に顔を赤らめたのを覚えています。

 

そうしてある日、私は勇気をふり絞りオーナーに直接話をしに行きました。
デザインに基づいた商品開発に力を注いでいくべきではないかと。
すると彼は言いました。「ペラッツァ君、そのプロジェクト、プレゼンしてみなさい。」と。
私は意を決して、プロジェクトに関するアイデアを集めるのに没頭しました。
しかし1週間経っても、全くアイデアは浮かびませんでした。

 

人生を変えた椅子 Bertoia Chair との出会い

 

Bertoia Chair

Bertoia Chair

 

私は人生に少なくとも一度、「魔法の7秒間(私が呼んでいるのですが)」があると思うんです。その7秒間には人生の方向が変わる出来事が起こる事もあり得るのです。まぁ、私にとっての魔法の7秒間は、今まで知らなかったあの美しい椅子に出会ったあの日の出来事です。その椅子が私の目に留まったのには、2つの理由があります。それはデザインのクオリティと素材です。まさにその素材というのが、私の働いていた会社で製造に使っているスチールロッドだったからです。

 

その出会った椅子というのがこちらのワイヤーチェアです。Harry Bertoia(ハリー・ベルトイア)がKnollでデザインしたものです。私は2脚購入し、1脚に約500ユーロ支払いました。私は早速購入した椅子を会社にいる技術者のところに持って行き、この椅子をうちで製造するには幾らかかるだろうと尋ねました。10日後、彼が言うには、費用は約10ユーロだというのです。10ユーロに対して500ユーロ!?

 

Olivettiがつないだ最初のパートナー Richard Sapper

 

この大きな差額に私は驚き、コントラクト向けにスチールロッドで椅子とテーブルを作ってみようというアイデアが生まれました。それを実現するには、優秀なデザイナーを見つけなければなりませんでした。さてどこから探してこようか、と。

 

当時私がとても親しくしていた友人の中に、OlivettiのAdriano Olivettiがいました。オリベッティは私にとってのデザインの世界的な聖地のような会社でした。

 

彼に誰かデザイナーを知らないかと尋ねたところ、Richard Sapper(リチャード・サパー)を紹介してくれました。彼はドイツ人でミラノにあるMarco Zanuso事務所で働いていました。私はサパーに電話し、会社に招待しました。彼は私達の会社の技術レベルにとても良い印象を受けたようでした。

 

私は、ベルトイアがデザインした椅子を幾らで購入したか、そして自社で製造すればいかにコストを抑えられるかを伝え、コントラクト向けにスチールロッドで椅子やテーブルを作りたいという考えを彼に話しました。

 

彼はこのプロジェクトに興味を示し、協力を惜しみませんでした。私はプロジェクトが進んでいくのを大変嬉しく思いました。ある日私はプロジェクトに関してオーナーに話しに行きました。話を全て聞き終わった後、彼は冷たくこう言いました。

 

「ペラッツァ君、君のアイデアは素晴らしいと思うよ。でも私はデザイナーと働く気はない、しかも外国人のデザイナーとはね」。

 

 

2. マジスについて

magis本社

Magis本社

 

それから数ヵ月して私はその会社を辞め、1976年Magisを創立しました。

 

私はデザインに全力を傾けました。特にヴェネト州(イタリア北東部の州)においては他になく、素晴らしい価値と豊かさを生み出せる会社になりうるだろうと確信していました。数ヶ月弱たった頃、資金調達のため、負担の軽い事業経営のプロジェクトを考案し、発展させることをせまられ、実行しました。生産は外部で行い、会社は企画(設計)と商品の流通に専念しました。

 

最初の頃ビジネスは難航し、多少行き当たりばったりで資金繰りも大変でしたが、少しずつうまくいき始めました。
そして徐々に全てのことがあるべきように動き出し、今日まで続いて43年という月日がたちました。マジスは順調で、会社として大変いい評判も受けており、国際的なデザインコミュニティで、本当に多くの人達から支持を受けています。やっと私もその事実を信じ始めたのですがね。

 

「First-mover」であり続ける会社

 

ですがこのような会社への評価というものはそう簡単に得られたのではありません。長い間、厳しい仕事の積み重ねがあってやっと手に入れられたのです。私は「このような素晴らしい評価をどのように手にしたのか」という質問をよくされるのですが、私が見つけた唯一の答えは、マジスは創立当初から、どういう会社になりたいかということに誠実だったからじゃないかと。

 

つまり新しい事の導入(イノベーション)、研究、新素材、技術、新しい解釈への挑戦(実験)をしていく会社であること。そして高品質のデザイン、際立つ個性や独自性、ユニークかつ普遍的なコレクションを作ることに時間を費やし、常に「First-mover(市場参入のトップ)」であり続ける会社であることです。

 

「First-mover」とは、新しい解決策を見出だしたということ、つまり単に問題を解決しただけでなく、その分野で新しい何かを発見したということです。マジスが扱っているのは、スチール、プラスチック、木、アルミニウムなどということではなく、考え(アイデア)なのです。

 

私達はアーティストの工場です。勇気、洞察力、今あるものに挑み、未知のものへと進んで行く時、あなた方全員がアーティストになります。マジスは成長しています。会社は常に成長していかなければなりません、新鮮さを失わず、活動的で、機敏でいる為にです。会社は木のようなもので、健康でいなければ育ちません。成長が止まった時点で枯れてしまいます。

 

FAZ

イタリアの雑誌『FAZ』の表紙に掲載されたMagis

 

マジスは家族的な会社です。もしあなた達もオーナーであるという強い気持ちを持っているなら、それは高いレベルで意識的にMagisの一員であるということ。マジスに対して主体性を持ち、深く愛着を持っているということ。マジスはあなたの一部だということです。

 

 

3. マジス流デザインとは

マジス流デザインについて皆さんに一つ伝えたいことがあります。
マジス流デザインとは、一脚の椅子ではなく、テーブルでもなく、照明でもなく、車でもなく、それは考え方です。他とは違うものを作っていく探求において、会社をその方向に動かしていくいわば一つの文化です。違いというものは当然重要なもので、その違い、他との差別化が会社の力になります。

 

会社とデザイナーで作り上げるビジョン

 

デザインを作るには、二人が必要になります。一人は会社でありその社員たちの声がまとまったものです。もう一人はデザイナーで、その二人が同じリズムでペダルを踏んで自転車をこいでいかなければなりません。ハンドルは常に会社が持ちます。会社が方向性をしっかり決め進んでいかなければ、デザイナーはどこへ行ったらいいかわからなくなりますからね。

 

共生は両者からのたくさんの意識の上に成り立ち、片方だけ多かったり少なかったりしたら、なし得ません。造語ですが、「競生」すなわち協力と競争が共存するところに、多様性があります。デザインとは2人の旅です。会社のビジョンの中にその旅が組み込まれ、現実とユートピアとの微妙なバランスからそのビジョンが生まれます。

 

深く没頭し常に考え続けること、そして再考すること

 

プロジェクトにはまずいいアイデアがなければなりません。いいアイデアがなければデザインはできないし、それはスタイルの実現、純粋なマニエリスムでしかありえません。

 

アイデアというものは空から降ってくるわけではありません。反対にもっと深く、存在する意識の底から生まれるものです。本当に深く没頭して追い求めること。無限に問題を探求し、たくさんの道を試し、何度も繰り返し、見つけては試していく。予想だにしていなかったところに、亀裂や割目、小さなきっかけで新しい何かを広げる隙間を見つけられるまで。

 

そうして見つかったアイデアは大切にしなくてはなりません。そして心から楽しんでください。寝てる時も、シャワーを浴びる時も、レストランに行く時も考え続けてください。そして、そのアイデアを膨らませ、プロジェクトを立ち上げてください。

 

マジス流のデザインとは、新しく考えることです。頭をアイデアでいっぱいにします。なぜなら頭は体の中で唯一満杯にならないところだからです。そしてスクリーニングをしてください。どのアイデアがよいか選択し、それを膨らませてください。

 

でも気をつけなければならないのは、再考することです。そうしないと、世界は常に進んでいるので、いいアイデアが永遠にいいものであり続けることはできないからです。そしてそのアイデアがよさを失い始め、廃れ始めてきた時、そのサインを根本から認めることです。

 

実際に試す、という文化を育てることが必要です。それは私たちがたどり着きたい目標に向かうための、努力、意志、わがまま、熱狂、狂気そのもの、という大きな投資です。それは立ち向かっていく、壁の向こう側に背中を押すような勇気です。できないリスクはもちろんあります。ですが、もう一度やり直す必要があります。

 

人生では必ず一度失敗することがあるのを覚えておいてください。それは挑戦する意欲をなくしてしまう時です。よく意識しておくことは、その場所で、また壁のもっと向こうにおいても、他とは違う重要な結果をもたらすでしょう。

 

変化を見極め、本物のデザインを追求する

 

今日すべてが変化しています。マーケットは今までとは異なり、消費者たちも変わりました。このようにすべてが変わっている状況の中で戦うためには、今までと同じ武器で戦うことはできません(この比喩は私のものではありませんが)。あなたがもしすべての問題に対する答えを見つけたとしても、その時にはすでに問題が変わってしまっていることもあるからです。

 

デザインも変わらなくてはなりません。世の中には確かにいいデザイン商品があります。しかし現在目にするデザイン商品には、つまらなく浅はかなものも多く、だいたいそれらは装飾過多で、長くは続きません。これらのいわゆる”ファストデザイン”は、今だけのもので、将来も過去も重要ではありません。本物のデザインは、それが熟するのを待たなければなりません。つまり時間とともに、注意深く扱われ、正確にそして厳密に絶えず忍耐力を持って定義されるのです。

 

まず初めに、均一な大量プロジェクトはやめなければなりません。そこには熱意も心も、そしてクオリティもないからです。数少ない細やかなプロジェクトに集中してください。それらは元々強いアイデア、存在理由に支えられたものであり、そのクオリティの定義を理解すること。市場では常にクオリティが勝者ですから。

 

 

4. マジス商品の紹介

Air-Chair
Jasper Morrison(ジャスパー・モリソン)とのプロジェクトで、2000年から生産開始しました。

air-chair_4 copy

 

1990年代終わり頃のことです。私が偶然手にしたものは、プラスチックのパーツとチューブでした。その頑丈さはスチールの棒のようで、スチールに比べるとそのとてつもない軽さに私はとても驚きました。それは家庭用電器製品のパーツとして使われていましたが、始まりはある技術によってよく知られています。ガス注入による成型、エアモールディング成型と呼ばれる技術です。

 

私の頭にはすぐに、連携ということが頭に浮かびました。この技術を利用しプラスチックでモノコック構造の椅子を作ってみようじゃないか、と思ったのです。連携とは、ある状況下で機能している既存のものに新しい機能がないか追及して他のものに変えることです。私たちはそのアイデアをよく追究し、現実可能なものか、コスト、価格などを計算しました。

 

そして最終的にはこのアイデアを進めていく結論に至り、ジャスパー・モリソンと話し合いました。彼こそが、このプロジェクトを成し遂げるにふさわしいデザイナーであると思いました。彼はアイデアをまとめ、私たちがすぐに実現できるよう、1年後この椅子のプロジェクトを私達に届けたのでした。

 

 

OFFICINA
プロジェクトへの挑戦。

 

Officina

Officina

 

この美しいコレクションは、マジスが創業以来手がけてきた美しい作品の一つであると言えます。
テーブル、サイドテーブル、チェア、スツール、アームチェア、ソファなどすべて鍛造によって成型されたフレームのコレクションです。私達の厳密なガイドラインと、デザイナーのブルレック兄弟によって作られました。

 

この挑戦は鋳鉄をモダンで現代向けに生まれ変わらせ、新しい機能を追及したと言えるでしょう。私はとても成功だったように思います。

 

 

CHAIR_ONE

 

MAgis-chairone

Chair_One

 

1999年にKonstantin Grcic(コンスタンティン・グルチッチ)に出会いました。
ミラノサローネのマジスのスタンドでです。
私は彼に尋ねました。「いつか何かマジスのデザインを手がけてくれるかな?」。
彼は答えました。「それは絶対にないでしょう、ペラッツァ」。

 

2000年、同じ場所で同じやりとりをしましたが、今度も彼の回答は同じでした。
私は考えました。どうして彼は断るんだろうと。

 

私が行き着いた答えは、次のようなものです。
彼が断るのは、私が彼にプラスチック素材の椅子をデザインして欲しいと思っているのだろう、もうマジスにはたくさんあるのに、と考えているからだと確信したのです。

 

ダイキャストアルミニウムでマジスの椅子をデザインしてほしい

 

2001年、やはりミラノサローネのマジスのスタンドで私は彼に言いました。
「いつかダイキャストアルミニウムでマジスの椅子をデザインしてくれないかな」。
彼はこう答えました。「もちろんです」。

 

そしてコンスタンティンが椅子のプロジェクトを提案してくれた時、私はすぐにそれを気に入りましたが、私の期待をはるかに超えていました。それは空間とデザインの美的なクオリティを持つ素晴らしいものでした。私はすぐにその型を作りました。

 

Chair_Oneは2003年のミラノサローネで発表された最初の作品ですが、当初あまり注目されませんでした。
コンスタンティンの作品は大体そうなのですが、彼のデザインはいわゆる「一目ぼれ」されるものではなく、時間とともに評価されるデザインです。ゆっくりと時間をかけて、例えば偉大な小説家の本のように、理解して味わうには何度も何度も読まなければその良さがわからないのです。

 

Chair_Oneは発表された当初はマーケットで大変苦戦しました。私が覚えているのは、彼にこう言ったことです。

 

「あの椅子はあなたをスターにするでしょうね、そしてあなたにとってつらい一撃にもなるでしょう。なぜならあの椅子はあるクオリティを保証し、これからの私達のプロジェクトにおいて、必ず賞賛されることになるので・・・。あなたには高くつくでしょうね」と。

 

Chair_One デ・ヤング美術館

デ・ヤング美術館 / Herzog & de Meuron

 

最初にChair_Oneのクオリティとその素晴らしさを理解してくれたのは、スイスの建築家Herzog & de Meuron(ヘルツォーク&ド・ムーロン)でした。彼らは自分たちがデザインしたレストランにChair_Oneを使用しました。サンフランシスコにあるデ・ヤング美術館です。こうしてChair_Oneは知られるようになり、いいスタートを切ることができました。

 

今日Chair_Oneはベストセラー商品であり、モダンな作品におけるアイコンです。この作品は必ず将来のクラシック、名作になるだろうと確信しています。

 

 

5. 将来デザインに携わる若いデザイナー、学生の皆さんへのアドバイス

Magis 創業者 Eugenio Perazza ユージニオ・ペラッツァ

Magis 創業者 Eugenio Perazza ユージニオ・ペラッツァ

 

さて、今日はここにいらしている若いデザイナーの方々、デザインを勉強されている学生の人達に、何年もデザインという分野で働いてきた経験から、いくつかのアドバイスをしたいと思います。

 

自分達の携わる仕事を愛してください

 

昔の人は言いました。「自分の仕事を愛するということは仕事をしていないようなものだ」。
当然ですが、仕事の環境が好ましいこと、同僚や上司との関係がうまくいっていること、家族を養えるだけのお給料があることは重要です。しかし、そのような理由だけがあなたが仕事を愛する理由にはなりません。

 

仕事を愛するには動機はほかにもあります。
「この仕事は自分にとって重要だろうか」
「自分を成長させてくれるだろうか」
「新しいことは学べるだろうか」
「何か功績を収められるだろうか、何かを成し遂げるチャレンジは出来るだろうか」
「その仕事への責任を果たせるだろうか」

 

確信があるようなら、それが強ければ強いほど、とにかく自分自身を、自分の行く方向を変えることに寛容であってください。もし仕事で立ち止まってしまうことがあれば、それが創造性や成長を止めてしまうようなことであれば、いい環境になるよう、出来る限りのことをやってください。

 

挫折を乗り越え、立ち向かい、創造性を身につけてください

 

意欲にあふれる目的に狙いを定め、夢は大きく持ってください。
最もシンプルなことを言いますが、どうして中途半端な冒険をするのですか?
高いところを目差すには、失敗が何度かあるでしょう。その時は起き上がって、埃を払い、また新たに立ち向かってください。人生には苦しい場面が何度かありますが、挫折を何度も経験しながらそれに立ち向かわなければ、乗り越える能力は身につけられないし、必要なことなんです。

 

人生には、回復力、何かを変えること(イノベーション)、創造性が必要です。
回復力とは、困難に立ち向かえる能力です。困難を乗り越え、強くなって抜け出し、時には困難を良い事に変えてしまえる力です。何かを変えること(イノベーション)には、時間がかかります。それは、夢を見る時間 / 熟考する時間 / 学習し、理解する時間 / 作り出す時間 / 実際に実験する時間。そして頭を休ませ、脚を机の下で伸ばし窓の外を眺める30分です。

 

創造性とは、遺伝的な才能ではなく、何かしら努力して勝ち取ったものであり、意識して前向きな状況を作り出したところに、人とものとの交差するところに生まれるものです。

 

なりたい自分に忠実に、日々の変化に向き合ってください

 

創造性はただ単に、芸術的、科学技術の革新である必要はなく、人々の日常の何かに必要なものです。こういう意味で、創造性に必要な最も重要な要素というのは柔軟性なんです。解決方法を考え出す力、一つの事を別な観点から見ることができる力です。もっと良いのは、毎日日常の変化に向き合えることです。

 

どうか、なりたい自分に忠実であり続けてください。そして疑問を持ち続けてください。
「将来なりたいと思う自分になるために、今自分が何をしているのか」。
学校を卒業したら、また次の学校、「経験」という学校を始めてください。
日常で聞き知ることに、いつもオープンな気持ちでいる事が必要です。
まだ熟練していない状態のあらゆる横柄な考え、うぬぼれから自分を遠ざけてください。

 

これから素晴らしい例をお見せします。

 

モネ睡蓮

モネの「睡蓮」

 

過去よりも、一歩だけ進んだものを残すこと

 

モネは睡蓮で埋め尽くされた池の素晴らしい絵を描きました。彼は何年も描き続けましたが、どうしても描くことができなかったのは、水面下の茎の動きだったとのことです。睡蓮の茎が水中で揺れている様子をどんなにか正確に描きたかったのでしょう。しかし彼が亡くなったのはまだ描き方を追究し続けていて、なかなか掴みきれずもがいていた頃だったといいます。

 

モネの話で言いたかったのは、物事はその幅ではなく深さを大事にしてください、ということです。
覚えていてください。何か新しいことをしたいと思う時、それについて過去にどうやって何がなされたかを必ず知っておかなければなりません。私が思う「いいデザイン」とは、常に一歩、微々たるものでいいので、従来のものより一歩だけ進んだものを残すことです。また、成功は魔法から生まれるものではないことも忘れないでください。たくさんの小さなことを他のものより良くしていけることです。

 

ある人の言葉ですが、「長く続く成功とはたいてい、これだと思うことに粘り強く何かに打ち込んで、毎日それに取り組んで、一見重要でないような、地味なことでも多くの改善点を見つけ出すところに生まれます」。

 

そしてあなた方の功績というものは、あなた方がいなくなった時、残り続けることを忘れないでください。何かを良くするために、あなた方が変えることが出来た、残したものによりますけれどね。
毎日少しでも違いを作ってください。本物の庭師の仕事はただ芝を刈るだけでその違いがはっきりとわかりますよね。

 

皆さんのそれぞれのお仕事でのご活躍をお祈りします。

 

 

6. ある一つの寓話

最後に皆さんに一つ、寓話を紹介します。

 

小さな村に3本の分かれた道がありました。
1本は、誰もが知っているように、海に通じていました。
2本目の道は、これも皆が知っていましたが、丘に通じていました。
3本目の道は、どこにも通じていないと、皆が言っていました。

 

その村にはMartino(マルティーノ)という少年が住んでいました。
とても好奇心が強いマルティーノは、「あの3本目の道は、どこにも通じていないとみんなは言うけど、誰か行ってみたことはあるの?」と何度も何度も村人達に尋ねていました。村人達は、「いやいや、私達の誰も行ったことがないよ」と答えました。
それでもマルティーノが、「誰も行った事がないのに、どうしてどこにも通じていないということができるの?」としつこいくらいに尋ねるので、村人達から「頑固なマルティーノ」と呼ばれるほどでした。

 

マルティーノはある日、どうしても好奇心をおさえられなくなったのか、3本目の道を行ってみることにしました。何時間も歩き続けて疲れてしまい、辺りは真っ暗になりました。帰り道が心配になり始めましたが、彼はあきらめませんでした。3本目の道を行くとどこに辿り着くのか、疲れや心配よりも彼の好奇心が強かったのです。そのまま歩き続けると、前に美しい城が現れました。

 

バルコニーにいた一人の貴婦人が、「こちらに来て城の中に入りなさい、マルティーノ」と言うので、マルティーノが城に入ると、貴婦人は中を案内し、こう言いました。
「これを見て、マルティーノ。素晴らしい金や宝物があります。欲しいだけ持って行きなさい。この荷車に載せて持って帰るといいわ」。
マルティーノは貴婦人に言われたとおりにしました。

 

家に帰るとマルティーノは、友達や、そうでもない(よく思っていない)人たちにさえも、持って帰った金や宝物を分けてあげました。そして3本目の道を行くことで出会った貴婦人やお城のことを話して聞かせました。
話を聞いた村人達は一斉に3本目の道を行ってみました。けれど、誰も城を見つけることが出来ず、気前の良い貴婦人に出会うこともできませんでした。
なぜならそれは、最初に新しい道を切り開いた者だけが手にすることができる宝物だったというわけです。

 

ご静聴いただきまして誠にありがとうございました。

 


LIVING&DESIGN2018 スペシャルセミナー
MAGIS創業者 ユージニオ・ペラッツァが語る 「Il design secondo Magis マジス流デザイン」

会期:2018年10月11日 15:00~16:00
会場:大阪南港ATCホール
モデレーター:デザインプロデューサー 喜多俊之氏
http://www.living-and-design.com/seminar/